聖隷クリストファー中・高等学校
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朝のお話(清水憲先生)

2013年4月30日

 1984年11月、当時、高校2年生だった私は草薙のテニスコートにいました。新人戦の県大会に出場するためです。私は高校時代、静岡県東部地区にある高校のソフトテニス部に所属していました。ソフトテニスはダブルスが中心です。私のペアは1つ後輩の「A」という1年生でした。「A」は後衛です。ベースライン近くにポジションを取り、ゲームをコントールする役割です。彼は小柄ですが、全身がバネのような男でした。中学時代から実績があり、ソフトテニス有名校からスカウトの声がかかるような選手でした。しなやかなボールコントールでゲームを作ることができるクレバーな後衛で、どちからというと高い運動能力で感覚的にテニスができる天才肌の選手でした。

一方前衛の私は、攻撃的なポジションの割に地味なプレーが好きな選手でした。セオリーや展開を考えて、次の攻撃パターンを考える理論的なプレーが好きでした。私にとって、派手なスマッシュやボレーなど魅力的ではありません。どのポジションに立って、どのようなフェイントをかけたら相手にプレッシャーがかかりミスを誘発できるかが、私の理想とするプレースタイルでした。だから「A」と私は、二人の良さがかみ合うペアでした。その結果、新人戦県大会ではベスト8に入ることができ、東海大会に出場することができました。

年が変わり、1985年5月。私は高校3年生になり、「A」は2年生となりました。私は高校最後のインターハイ予選を迎えました。目標はただ1つ。インターハイ出場です。静岡県で6位までに入ればインターハイ出場です。半年前の新人戦で県ベスト8だった私たちペアは、インターハイ出場の有力候補だったことに間違いありません。

ところが、私たちペアは静岡県東部予選の3回戦で負けてしまったのです。県大会出場権も獲得できずに負けてしまったのです。インターハイ出場という私の夢はそこで終わりました。

それから、1年後。1986年6月。大学の1年生になっていた私に電話がかかってきました。高校3年生になった「A」からでした。「A」はこう言いました。

「先輩、やりました。インターハイ出場決めました。」

「そうか。おめでとう。何位でインターハイに出るんだ?」

私はそう聞きました。

「1位です。県大会で優勝して、インターハイ出場決めました。」

何と「A」は県のチャンピオンになったのです。そして彼はこう続けました。

「インターハイに出場できたのも、優勝できたのも、全部、先輩のおかげです。1年前に先輩と組んで東部予選で負けた日からです、自分が本気で練習しはじめたのは。あの負けがなかったら、今の自分はなかったと思います。自分も悔しかったですけど、それ以上に先輩を勝たせられなかったことが悔しかったんです。」

そんなことを言いました。

私は嬉しくなりました。正直、負けた直後は複雑な思いでした。インターハイ出場が手に届きそうなところにいただけに悔しさがありました。しかし、「負け」はしたものの、自分の「負け」が後輩たちの「力」になったことが嬉しかったのです。「A」の言葉で私は自分の「負け」は無駄ではなかったんだと感じました。と同時に、いつの日か、教師になり、ソフトテニス部の顧問としてインターハイに出場することができたらと考えるようになりました。

それから、14年後の2000年、私は前任校でソフトテニス部の顧問として、念願のインターハイに行くことができました。

私は自分の高校時代の経験と、部活顧問をして気づいたことがあります。それは、高校時代は2つ上までの先輩の姿しか直接見ることはできないということです。実際には、その上にも先輩はいて、さらにその上にも先輩はいて、そのまた上の先輩もいるのです。部活の歴史だけ先輩はいるのです。結果としては残ってはいなくても、努力してきた多くの先輩たちの「思い」や「魂」はそこにあるということに気付いたのです。

本校で実績を残している男子バレー部も最初は土のコートでスタートしたと聞きました。女子ソフトボール部も校舎隣のソフトボール場ができるまでは可能な時には三方原墓園の中にある広場のようなところで練習をさせていただいていました。当然ですが、その時の選手である先輩はもういません。しかし、その時の選手たちが苦労した「思い」は、目には見えないけれど確実にその部の中に存在しているのではないでしょうか。もしかしたら、そのような「思い」や「魂」のことを「伝統」というのかもしれません。

2013年、もうすでに各部でインターハイ予選が始まっています。また、運動部だけでなく文化部でも大会やコンクールに出場する人たちも多いと思います。それぞれの部で今まで努力してきたことが発揮されることを願っています。そして、君たちの先輩たちの「思い」や「魂」が「伝統の力」として君たちを後押ししてくれると信じています。

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